LOGIN辺境伯令嬢ミシェルは前世の知識を使い、エセ占い師として恋愛相談を行っていた。世界を滅ぼした五角関係の真実を解明するためだ。 転生した世界は魔王の復活により殆ど人類が滅ぶ運命だった。 運命を変えるべく、ミシェルは前世の情報から侯爵令嬢アウレリアの死を回避しようと考えた。彼女の死は五人の人間関係に起因するようだ。 しかし、ミシェルはトラウマで幼い頃の記憶を無くし、引きこもっていたため人間関係がゼロだった。苦肉の策で占いを始めたのである。 そこへ第二王子ライオネルが訪れ、兄であるフィリップの恋愛関係調査を依頼してきて……。 ミシェルはライオネルと協力し、あの手この手で五人の恋愛を解明していく。
View More私は死にたくなんかない。だから、早く逃げる準備をしなきゃ。自分の部屋で、鞄に詰められるだけ荷物を詰める。隣国に首を差し出せなんて冗談じゃない。
ふと、赤い目をした彼の顔が頭に浮かんで手が止まった。 そうすれば、次々とみんなの顔が脳裏をよぎる。アウレリア様の恋心が実った時の嬉しそうな顔、ケイティの純粋で信じてると言った時の顔。私の初めての友達たち。 私が今逃げれば、彼女たちが手に入れた幸せは簡単に壊れてしまうだろう。この国だって滅んでしまう。逆に隣国ヴァレリアン帝国に私の首一つ出せばすべてが丸く収まる。 そして、ゲームとは違った幸せな未来がこの国には訪れる。 私だけが助けられる。本当に私は逃げてしまっていいの? わからない。どうしていいのか、わからない。 逃げてしまいたい。誰かに、背を押してもらえたなら、私は楽に逃げられるのに。 「ミシェル!」 低くてハリのある、でも優しくて暖かい声が私の名前を呼ぶ。 振り返らなくても誰かなんてわかってる。 「二人で行こう」 私はすぐさま振り返った。空は赤らんで、彼の綺麗な金髪はオレンジ色に輝いていた。それよりも目を惹きつけたのは空よりも赤くて深い瞳。口よりも雄弁に語っていた。大丈夫だって。 その胸に飛び込みたかった。胸が目頭が熱くなる。 「二人で駆け落ちも悪くないだろう?」 優しい声色で、私を誘惑する。彼から伸ばされた手をいますぐにでも取りたかった。 遠くに二人で逃げれたら、そうしたら私は幸せになれるんじゃないかって。 でも、私の手はドレスの裾を離さなかった。 私には、貴方とみんなの思い出がある。前世の記憶を取り戻したあの日からの思い出が――。ライオネル殿下はしばらく寝たきりだと聞く。 私は学院に行く気力もなく自室に籠りきりになっている。だって、もしゲームのようにライオネル殿下が動けなくなってしまったら、私があの場にいなければ良かったら、と頭がいっぱいだったから。 すべてから逃げ出して辺境の地に戻ってしまいたい。何もかも知らないフリをしたい。挫けそうな心の後ろ髪を引くのは、ライオネル殿下への罪悪感。 城からの一報もないまま、しばらく休んでいた私を心配して、アウレリア様とケイティが自室に訪問してくれた。メイドがお茶の準備をして下がる。「アウレリア様、ケイティ、来てくれてありがとうございます」 カップに口をつけてから、二人にお茶を進める。ひとりでいるといろいろな考えが頭にぐるぐるするから、ありがたかった。でも、二人にはライオネル殿下との作戦を話していなかったので後ろめたさがある。 学院の様子だとか、休んでいた時の勉強についてだとか、たわいない話をしてくれる。気がまぎれる。でも、頭の片隅では、目の前で血を流すライオネル殿下の姿がいまもちらついて離れない。「ミシェル……やっぱりライオネルのこと気になるわよね?」 心ここにあらずなのが透けて見えたのか、アウレリア様が心配そうに核心に触れて来た。ドキっとする。「はい……」 私があの場にさえいなければ、ライオネル殿下は毒の塗られたナイフで刺されることもなかった。もし、あの毒でライオネル殿下の足が動かなくなったらどうしよう。ゲーム通りに進んでしまう。「貴女のおかげで解毒が速やかにできたそうよ。だから、命に別状はないわ」「……はい」 私もそう聞いている。命に別状はない。それは喜ばしいことだけど、まだ目が覚めないらしいし、起きてから足が動かないという症状が出ることだってある。 なんであの時、私なんかを庇ったの……?「それでも気になるわよね」「…………」 罪悪感が胸に突き刺さる。「ミシェル&h
「ライオネル殿下は毒で動けないはずですわ、どうして立っておられるのですか!?」「……毒で動けなかったとして、その短剣を、お前はどうするつもりだったんだ?」「こ、これには毒が塗られてるって、刺せば体の一部が麻痺して動かなくなるって!」 ジュリアナ様は混乱しているのか叫びながら告白してくれる。どうやら誰かに何かを吹き込まれているらしい。「ライオネル殿下が大怪我をすれば、シルヴァレーン家は責任を取らされるわ! そうすれば我が家は、次期婚約者候補になる!」 しかし、吹き込まれてる内容がめちゃくちゃね。なんで私の関係ないところでライオネル殿下が怪我して、私の家が責任とらされなきゃいけないの? それは警備の薄い王城のせいでしょうが。 私は、冷たくジュリアナ様に言い放つ。「そんなわけないじゃない」「嘘よ! だってそう聞いたもの!」 けど、大声で突っぱねられた。聞いたって、やっぱりジュリアナ様が主体ではないみたいね。冷静に返す。「誰に?」「宰相さんよ! あの人がすべて手筈は大丈夫だからって、だから、私は――!」 宰相ってライオネル殿下も慕ってるあの優秀な人のこと? 嘘でしょ? こんなとんちんかんなことを吹き込む?「待て、本当に宰相か?」 私が動揺して言葉に詰まっていれば、ライオネル殿下が眉をひそめて問いただす。「そうよ! ノクタリウス様のお父上と名乗っていたもの!」 ダメな人間が勝手にやった口。それ宰相様じゃないから。ダメ人間の方だから。「……グレイヴァンド家か。すぐ取り調べよう」 ライオネル殿下がため息を吐いてから、肩を落とす。呆れるわよね、本当に。私はなおも冷たい視線を向けながら、ジュリアナ様に聞いた。「宰相様の顔もご存じない?」「~~っ! なんなのよ、なんのよ、もう!」 私とライオネル殿下の態度に、ジュリアナ様は地団太を踏んだ。相当お怒りのようだ。勝手に納得されているのだから、わけがわかなくて感情が爆発してるのだろう。 なんて悠長に眺めてたら、ジュリアナ様
そんなわけで、私はまだメイドとして城内を歩き回っている。もちろん、フィリップ殿下には見つからないように行動している。 ご令嬢という立場もあるので、客室を借りて、夜間は外出禁止を言い渡されてるけど、守っていたら情報を取り逃すかもしれないじゃない。 だから、夜間、人が少ない廊下をランタン片手に歩いている。ライオネル殿下に見つかったらお小言をいわれそうだ。 人影を見つけた。私と同じメイド服。けれど、最初の私同様、ご令嬢さが隠せておらず、遠目からでもそれが誰だかは予想できた。 彼女は辺りをきょろきょろと見回して挙動不審になりながらも、足は迷っていない。あっちの方向はライオネル殿下の寝室じゃなかったかしら。 ランタンを消して、彼女の持つ明かりを頼りにこっそりとついていく。月明りもあって、見失うことはない。 彼女はライオネル殿下の寝室まで辿りつくと、扉を少し開けて滑り込むように中に入る。 どうしようかしら、ライオネル殿下はこの部屋にはいないのよね。わざわざ敵が来そうなところは使わないって言ってたし。でも、人が入ったなら知らせる何かを仕掛けときそうよね。 そこまで考えて、後ろから声をかけられてびくっと肩が跳ねた。「おい、中に入ったのか?」 ライオネル殿下が訝し気な顔でこちらを見ている。私は首を横に振って応えた。「いえ、中に入ったのは……ジュリアナ様です」「……入るぞ」 私が答えると、ライオネル殿下は寝室のドアノブを掴んだ。私は彼の後ろから部屋の中に足を踏み入れる。「誰だ!」 ライオネル殿下の声に、ベッド際に立っている女が身を震わせた。ゆっくりとこちらを見る。 目立つ赤い髪を隠してもいないらしい。光に照らされ、彼女が誰なのかを映し出していた。ライオネル殿下を認めて、ジュリアナ様は叫びに近い声をあげる。「ら、ライオネル殿下……!」「そこで何をしている」 ライオネル殿下はジュリアナ様だとわかっていても、まだ名前を呼ばない。相手は、まだ気づかれてないと思っているのか、震えな
女性の噂話は恋愛と相場が決まっているのだ。ただ、噂の中にひとつだけ聞きなれないものがあった。それだけは確認をしておきたい。「恋愛話の中でひとつだけ気になったのがあるのですが、隣国の皇子がアウレリア様に好意を持っているという噂は本当なんですか?」 ゲームでそんな話は出てただろうか。攻め入る口実だと思っていたけど、まさかそこも恋愛関係が関わってこないわよね?「会ったのは数回、アウレリアの容姿なら惚れてるのもわからなくはないが、俺が見てる限りそういう感情を出してはこないな。政略結婚だろう」 隣国の皇子はあくまで国の繁栄のためであれば、どちらでもいいわけね。アウレリア様を娶って国交を結ぶのでも、戦争でカイリス国を手に入れるのでも。戦争をすればそれだけ死者も出る、天秤にかけた結果、この政略結婚が成されたわけね。スパイまで送ってライオネル殿下を狙い、関係を悪化させる意味はないか。 ライオネル殿下には言わないけど、実はノクタリウス様を疑っている。あれだけの愛情をアウレリア様に注いでる男が、アウレリア様に好きな人がいるって知ったら発狂しそうだな。と思った。そうなれば世界なんて滅ぼしちゃいそう。勝手なイメージなんだけど。 でも、そんな動きはないのよね。ラルフさんとのやりとりを見る感じ、意識はしてるからアウレリア様とラルフさんの仲を知らないってことも……ないよね? ラルフさんはあれだけ堂々と人に見せつけるんだから、ノクタリウス様にも見せつけてると思うんだけどなぁ。「怪しい人物はわからない。となりますと、次の手を打つしかないですね。毒殺したかった相手が先に毒を盛られて寝込んでたら、ライオネル殿下はどうします?」「条件によるが、俺の暗殺が成果報酬であれば直接寝込みを襲いに行く。早い段階でな」「別の暗殺者がいるのであれば、先に殺さなければならないからですか?」「ああ。だが、暗殺が目的ではないのなら、しばらく様子を見るだろう」 ゲームでは命は取られずとも下半身不随になって、戦闘はできない状態になっていた。と、なるとやっぱり様子見かしら。「様子見をするにしても内部の情報がほしいだろうから、毒殺しようとしたヤツは確実に城内